宗教が説く地獄界は架空の話
現世で悪いこと、不道徳な生涯を送った者は、死後は地獄に投げ入れられ、そこで永遠の罰を受ける――これは、世界中の宗教などが説いている“地獄の教え”だ。しかし、これは宗教上の必要からつくった話で、少しも根拠がない架空の話である。
私の記す地獄は、これとはまったく違った地獄であり、別に現世の悪業の報いとして投げ込まれるのでもなければ、永遠の苦しみを与えられるというのでもない。
さきほど触れたように、霊界のひとつの世界として、現実に存在する地獄である。
人間の死後、精霊となった者のうち、どんな者が地獄に行くかをひとくちで言うと、つ
まりは霊に目覚めず、霊界の存在が見えない精霊たちだということになる。だが、彼らとて現世で悪業を重ねたために、その罰として地獄に送られるわけではない。
彼らは彼らの欲するところによって、自ら地獄に行くにすぎない。 ただ、これらの精霊の中には、確かに現世で悪業を行なっていた者はすべて含まれている。その点では、結果的に宗教の教えと同じことになるように見えるが、
実際の理由はまったく違うのである。
地獄に行く精霊は、
現世にあったとき、たとえば物質的欲望、色欲、世間的名誉欲とか支配欲などといった人間の外面的、表面的感覚を喜ばすことばかりに心を用い、本当の霊的な事柄を極端にないがしろにした者である。
これらの者は、霊的事物にはまったく目が開かれなかったため、精霊界に入ってもやはり開かれない者が多い。 このような理由で、彼らの精霊としての心は、精霊界に長くいても霊界の太陽の光や霊流を自分の内部に吸収することができない。逆にその間に、地獄界の火に心を惹かれ、地獄界の凶霊たちに親しみを感じるようになる。この結果として、彼らは自分の希望するところにしたがって地獄界に入っていくのである。
人間でも似た者同士が集まるのとまったく同じ理由なのである。
地獄界の凶霊は、霊界の光や霊流からは霊としての喜びや幸福を感じることができない代わりに、自分の欲望を満足させることを喜ぶ。また、ほかの霊の賞讃を得たいといった、人間でいえば外面的、物質的に低級な欲望ばかりだが、これを満足させることが彼らには喜びであることには間違いない。
エマニュエル・スウェデンボルグの 霊界 ―― Ⅰ
人間は、霊界に支配されている
E・スウェデンボルグ・著 今村光一・訳
中央アート出版社 2000年刊
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参考、
★ 著者紹介 ★
[TOP] エマニュエル・スウェデンボルグ Emanuel Swedenbolg 1688-1772
スウェーデン人。自然科学、数学、物理学、哲学、心理学など20もの学問分野で、多くの業績を上げた天才であると同時に、巨大な霊能力の所有者としても世界中に知られる。1747年、いっさいの科学的研究の活動を放棄し、後半生の約30年間、心霊的な生活と霊界の研究に没頭した。生きながら霊界に出入りする「霊的生涯」を送り、ヨーロッパ中の大きな話題を集めた。彼が霊界で見聞、実体験してきたことを書き記した膨大な著書は、現在もロンドンの大英博物館に保管されている。1772年3月29日、自分が予言した日に没し、いまなお人類史上最大の不思議な人物とされる。