でもそんなことってあるか。死んだ人間に鐘の音なんか聞けるか?
それにわしは現にこうして生きてお前と話をしている。 わしが死んだなんていうのはうそさ。
私が「死んで霊になったのだ」と説得すると彼はびっくり仰天した顔でぽかんとしていたものである。
死んでまだ間がなく霊界についてまだよく知らない霊にはしばしば起こるのがこれと同じような現象である。
(訳者注 死んだ後でも自分の葬儀のもようなどが見えたりすることは、いまでは多くの研究で実証されている。だからここでスウェデンボルグが挙げているいるのはそんな一例ということになる)
これは肉体は死んでも霊として自分が生きているので、まだ自分は人間だと思っている例である。
だが、霊に自分と人間の区別できにくいという現象は死んで間もない霊の場合でなくともいくらでも起きる。
これは憑依の中でよく起こる現象を見れば誰にでもわかる。
人間に憑依した霊と問答してみると、霊たちのほとんどは
自分が憑依した対象の人物そのものだと思ったりしているものである。
ある中年女性に憑依した青年の霊でこんなケースがあった
この女性は男の霊に憑依されたために声も男みたいな声になり、その行動もそれまでと違って男っぽい行動をしたり、仕草をするようになった。
だが、面白いことに、この霊と問答してみると彼はこんなことをいった。
「おかしいな、僕はどうしてスカートなんかはいたりして女みたいな身なりをしているのだろう。それに化粧までしている!」
彼には憑依した対象の人物が見えたのだが、憑依した相手を自分だと思っているのだった。こんなケースは憑依の場合にはいつも起こる。
私はさっき「人間に返りたいがゆえに私と一緒にいたい」といった霊のケースを紹介した。この霊の場合、自分が霊になっていて私とは別の存在と自覚していたわけだが、実はこういう例はむしろ少ないといっていい。
私は三十年にわたって霊とのつき合いの中でいつも自分と一緒にいる人間を自分自身だと思っている霊に”訪問”された。そういう霊は私のところに”訪問”してくるとき、いつも私を自分だと思っている。
そこで私は「私はあなたと違うスウェデンボルグという人間で、あなたは人間でなく霊なのだ」と教えてやったものである。
だが、こういう場合にもっと面白いのは、きまってというほど彼らがいつもいうことでった。
「そんな変なことを聞くのは初めてだ。なにがなんだかわからなくなった」
つまり彼らはいつも相手の人間には気ずかれずに誰かと一緒にいて、その人間を自分だと思っている。
しかも相手の人間のほうもそんな霊が一緒にいることは知らないので、私がいまいったようなことを霊にいうことはない。
そこで彼らは「そんな変なことを聞くには初めてだ」といって首をひねることになる。
こういうケースは読者の想像どおり毎日毎日あなた自身にも起きている。そしてそのことはただ憑依のように目立った現象が起きたときにだけ気ずかれるということになる。
このことからは霊と人間は霊にも区別がつきにくいほど一心同体的なものだということがわかる。
さて、このように人間と霊は人間の側からはもちろん霊の側からも区別できないケースが多い。
だから霊の考えが人間に影響して、その考えによって人間が行動することがあっても当然なわけだ。
早い話、霊媒は霊がやってきたときには霊の考えをしゃべっているのだ。
憑依された人間は憑依した霊によって動かされているのだから。
続スウェデンボルグの霊界からの手記 今村光一抄訳編
御覧のように、肉体は有限、霊は永遠なものなのです。
蒼氓。